誰も見てない涙【中編】
- 2016/06/04 (Sat) |
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誰も見てない涙【中編】
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鬼太郎の纏う不気味な妖気に、横丁にいた気の弱い妖怪たちは散り散りに逃げて行った。残ったのは、目玉親父、蒼坊主、ネコ娘、砂かけばばあ、子泣きじじい、一反もめんの六人だけ。蒼坊主は六角棒を握りしめ、鬼太郎を睨み返した。
「なんでテメェがいる! 封印はどうした!?」
「封印? ああ、このしめ縄のことか」
鬼太郎はズボンのポケットから古くなったしめ縄を取り出した。軽く投げて、手に持った髪の毛剣で切り刻む。そして、引き攣ったような笑みを浮かべた。
「どっかの村のクソガキが結界を荒らしまくってくれたお蔭で、自力で封印を解くことができたよ」
蒼坊主が小さく舌打ちをする。いつの時代でも人間の無知には悩まされる、と心の中でぼやいた。
「たまたまさぁ、村人たちが己の不幸を妖怪のせいにして嘆いてくれていたおかげで、鬼太郎っていうこんなに素晴らしい体を手に入れられた。ハハッ! あいつらには感謝しねえとなぁ。体どころか、お前に復讐するチャンスをくれるなんてよぉ!」
鬼太郎が髪の毛剣を構えて蒼坊主を見据えた。ネコ娘が、どういうこと? と蒼坊主に尋ねる。
「アイツは、昔オレが封印した怨霊なんだ。人の闇に憑りつき、自分の体として意のままに操る」
早く鬼太郎から引き剥がさねぇと、と六角棒を構えた。鬼太郎がニタリと笑う。次の瞬間、六角棒と髪の毛剣が激しい音をたててぶつかり合った。互いに力を掛けてせめぎ合う。鬼太郎が右足で蹴り上げ、それを避けた蒼坊主は六角棒で髪の毛剣を跳ね飛ばした。しかし、すかさず鬼太郎が髪の毛針を放ち、二人は距離を取る。彼らが睨み合うだけで空気がビリビリと震えた。
「蒼よ! 何か解決策はないのか?」
砂かけばばあの肩に立った目玉親父が問う。その言葉に、ネコ娘もハッとしてそうよ! と叫ぶ。
「また封印し直せば……!」
「いや、そいつはちょっと難しいぜ。ネコちゃん」
ネコ娘の言葉を蒼坊主が否定する。鬼太郎は下劣な笑みを浮かべ、クックッと喉を鳴らした。
「そうさ。誰もコイツの闇を知らない。なぁ、蒼坊主! 兄と慕われたお前でさえ、コイツの心の闇には気付けない。心から打ち解ける相手に名前を呼ばれない限り、コイツから俺を引き剥がすことはできねぇ! ハハハッ! お前の負けだ、蒼坊主!」
鬼太郎は再び髪の毛剣を構え、蒼坊主に切り掛かった。蒼坊主は六角棒で防ぐが、みるみる押されていく。憑りつかれているだけの鬼太郎を、蒼坊主は攻撃できない。目玉親父とネコ娘が必死に鬼太郎の名を呼んだ。鬼太郎は攻撃の手を休めて高笑いをした。
「ムダムダムダムダムダだ! 言っただろう!? コイツの闇は誰にも分からない。誰もコイツは助けられねぇんだよ! 蒼坊主! お前が死ぬかコイツを殺すか、二つに一つだ!」
鬼太郎はリモコン下駄で蒼坊主を転倒させ、その上に馬乗りになった。薄笑いを浮かべながら六角棒を蹴り飛ばす。
「やっとお前に復讐できる! これで終わりだ。死ねええええええ!」
鬼太郎は振り上げた髪の毛剣を両手で強く握りしめ、叫びながら勢いよく振り下ろした。
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