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鬼ごっ子

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大人になれない子供たち【後編】

結論:私にほのぼのは向いていないw




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大人になれない子供たち

【後編】

 鬼太郎はそっとネコ娘の前に立った。

「ネコ娘」

「……へ? えっ、あ、鬼太郎。な、何?」

 ボーっとしていたネコ娘はいきなり話しかけられて動揺した。鬼太郎は小さく笑ってネコ娘の横を指差す。

「隣、座ってもいいかい?」

「あ、うん。いいよ」

 木の根をベンチ替わりにしているとはいえ、まだまだスペースはあったが、ネコ娘は少し横にずれた。鬼太郎はありがとう、と優しい声で言って座った。ネコ娘はまだ動揺していて、焼き芋を口元に当てたままキョロキョロと視線を動かす。一方鬼太郎は、何も話さずに黙々と芋を食べていた。

「……ねぇ、鬼太郎。何か話があるの?」

 ネコ娘は小さな声で訊いた。鬼太郎は何も答えないどころか、ネコ娘の方も向かずに只々口を動かしている。

「ねぇ、話があって来たんじゃないの?」

 ネコ娘は質問を繰り返した。そっと鬼太郎の服の袖を掴むと、鬼太郎は前を向いたままそっと目を閉じた。

「ネコ娘。何か用がないと、僕は君のそばに来ちゃいけないのかい?」

 ネコ娘は鬼太郎が怒っているのかと思って、慌てて手を離した。申し訳なさそうに視線を逸らす。鬼太郎はようやくネコ娘の方を向いて、ニコッと笑った。

「ねえネコ娘、僕たちは大人になれないね」

 鬼太郎の言葉にネコ娘はドキリとする。ビクッと跳ねた肩がその動揺を表していた。ネコ娘はおずおずと鬼太郎を見上げる。鬼太郎はまた前を向いていた。

「鬼太郎……?」

「僕たちはまだまだ大人にはなれない。でも、ずっとこのままってわけじゃないだろ?」

 ネコ娘は首を傾げた。すると、鬼太郎が遠くの砂かけばばあを指差す。ネコ娘も砂かけを見た。

「おばばは生まれたときからあんなだったと思うかい?」

 ネコ娘は静かに首を振る。鬼太郎はネコ娘の横顔を見てクスッと笑った。

「じゃあ、僕たちは生まれたときからこんなに大きかったかい?」

 ネコ娘は一度鬼太郎を見て目を伏せた。おぼえてない、と小さな声で答える。

「……でも、前はもっと小さかったよ」

 鬼太郎は柔らかく笑った。そうだよね、と言って目を閉じた。

「人間は二十年もあれば赤ん坊が大人になる。でも僕たちは二十年ぽっちじゃほとんど成長しない。でも、全く成長しないわけじゃない」

 それはとても淡々とした口調で、鬼太郎の心情は全く読み取れない。ネコ娘は顔を上げて鬼太郎の顔色を窺った。同時に目を開けた鬼太郎はふわっと笑う。

「僕たちは僕たちの早さで成長すればいいんだよ。早く大人になる必要なんてないんだ」

 そう言った途端、ネコ娘の顔がパアッと明るくなる。いつもの声音でうん! と力強く頷いた。

「ありがと、鬼太郎。あー、スッキリした! お芋すっかり冷めちゃった」

 ネコ娘は芋を一口かじって眉を垂れた。鬼太郎は少し笑った後、少しだけ哀しそうな顔をする。目を細めて遠くを見ながら、それに……と小さく呟いた。

「ん? 何? 鬼太郎」

 ネコ娘は首を傾げて鬼太郎を見た。鬼太郎はハッと我に返って、何でもないよとほほ笑んだ。

「……そう。あっ! おばばにお芋あっためてもらおっ!」

 ネコ娘は特に気にする様子もなく、勢いよく立ち上がって砂かけのところへ駆けて行った。

 ネコ娘が砂かけに冷めた芋を突き出しているのを遠くで見ながら、鬼太郎はフッと息を吐いた。

――僕を置いてなんか行かないでよ――

 出かかった言葉をグッと飲み込んで、鬼太郎は空を仰ぎながら芋をかじった。ヒュウと風が吹き抜ける。

「……ああ、冷たいなぁ」

 真っ青な秋空はどこまでも広がっていた。

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