沈丁花
- 2018/03/11 (Sun) |
- 五期 |
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沈丁花
「なんだか最近、いい匂いがするね」
バイト終わりのネコ娘を迎えに来た鬼太郎は、人間の街を歩きながら鼻をスンと鳴らした。
「ああ、沈丁花よ」
「ジンチョウゲ……?」
ネコ娘の言葉に鬼太郎は首を傾げた。ホラ、とネコ娘が指差した道端には、青々とした豊かな葉っぱが生い茂り、その所々に薄ピンクの花が咲いている。その花に鼻を近付けて匂いを嗅いだ鬼太郎は、ああ、これこれ! と笑った。
「沈丁花はダフネって女神が語源なんですって」
再び歩き出した鬼太郎の後を追いながらネコ娘は切り出した。
「ダフネは太陽神アポロンからの執拗な愛にうんざりして、父親に月桂樹の木に変えてもらったんですって」
「えっ! 木に!? なんだか吸血木みたいだね……」
素直に驚く鬼太郎が可愛く思えたネコ娘は、クスリと笑って続けた。
「それでね、ダフネを諦めきれなかったアポロンはその月桂樹を聖樹として崇め、その葉で作った冠を愛の証として一生身につけていたんですって。ロマンチックねー!」
ネコ娘はうっとりと天を仰いだ。鬼太郎はそうかな? と首を傾げる。
「それはアポロンの身勝手じゃないか? ダフネは木になってまでアポロンを拒んだんだろ?」
「ま、まあそうだけど……」
ネコ娘はモジモジと口篭った。
「僕なら、好きな人が笑っていられるのが一番だと思うけどね」
零れた言葉はしっかりとネコ娘の耳に届き、ネコ娘は目を見開く。
「き、鬼太郎!? 好きな人いるの!?」
もしかして葵ちゃん!? とネコ娘はたちまちパニックになる。頭を抱え、涙声でううっと唸った。
「もちろん。父さんにネコ娘、おばばやおじじ、ねずみ男に横丁のみんな」
指折り数える鬼太郎を見て、ネコ娘はそういう意味の好きかと、ホッと胸を撫で下ろした。しかしすぐに自分もその中に入っていることに気付き、ガックリと肩を落とす。
「どうしたんだい?」
「……なんでもない」
「ふーん……でもよく知ってたね。ネコ娘が花に詳しいなんて知らなかったよ」
「えっ、ああ、うん。今はほら、花屋でバイトしてるから……」
「勉強熱心だね」
褒められたと思ったネコ娘はたちまち耳まで真っ赤になる。
「そ、そんなこと……ないこともないけど」
あっという間に妄想タイムに入って勝手にキャーキャー言っているネコ娘を見て、鬼太郎は上手くごまかせたとホッと胸を撫で下ろした。
「ネコ娘? 置いていくよー」
ハッと我に返り、鬼太郎がかなり先にいることに気付いたネコ娘は慌てて駆け出した。
「置いていくなんてひどいよ」
「アハハ、ごめん。でも、ボーッとしてるネコ娘も悪いよ?」
「それは!」
反論出来ずにむーっと頬を膨らませたネコ娘を見て、鬼太郎は吹き出した。つられてネコ娘も笑う。
春の訪れを知らせる風が、沈丁花の花びらを攫って舞った。
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プロフィール
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傘屋
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女性
趣味:
読書 妄想
自己紹介:
ここは、鬼太郎至上主義者である私―傘屋が管理する二次創作ブログです。
小説を不定期であげています。
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COMMENT
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