大人になれない子供たち【前編】
- 2016/08/02 (Tue) |
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コンナニ綺麗ニナレルンダヨ。大人ニナレルンダヨ、私ダッテ……!
飛び起きたネコ娘は、自分が荒い息をしていることに驚いた。寝汗で張りついた服が気持ち悪い。先ほどの悪夢を忘れようと、大きくかぶりを振った。
大人になれない子供たち【前編】
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砂かけばばあの妖怪アパートの前で、鬼太郎たちは焼き芋を頬張っていた。呼子たちが賑やかに話しながら芋を食べる中、ネコ娘はどこか浮かない顔をしていた。鬼太郎は芋の皮を剥きながら、木陰に座るネコ娘を見た。最近ボーっとすることが多いなぁ、と思いながら芋を頬張る。
ネコ娘がぼんやりするときは大抵、何か悲しいことがあったときだ。先々月も、仲良くしていた猫が死んでしまったと、鬼太郎に涙を見せた。それから一週間ほどは、今のようにどこか上の空なことが多かった。しかし今は、鬼太郎には思い当たる節がない。ネコ娘は隠し事をするような性格ではないため、自分が知らない何か悲しいことは起こってないはずだと、鬼太郎は首を傾げた。
「なーに小難しそうな顔してんだよ」
芋を両手に持ったねずみ男が、鬼太郎の顔を覗き込んだ。
「……ああ、うん……」
鬼太郎は上の空で返事をする。ねずみ男は呆れたようにため息をつき、両手の芋を口に含んだ。
「……おめぇらもバカだよなぁ」
モゴモゴと口を動かしながら、心底呆れたと言わんばかりに首を振る。何だよ、と鬼太郎は顔を上げた。ねずみ男は芋を呑み込み、フッと息を吐いた。
「おめぇらはバカだって言ったんだよぉ、このバカチンが」
「な、誰がバカだって!?」
「そう鼻息荒くすんなよ」
ねずみ男はからかうように笑う。鬼太郎は、なってないと抗議するが、ねずみ男は聞く耳を持たない。ケッケッケッと楽しそうに笑いながら、ネコ娘を指差した。
「あそこの化け猫と、おめぇがバカだって言ったんだよ俺ぁ。ちんけなことで悩んでるネコ娘も、小難しいこと考えてるおめぇも、揃ってバカみてぇだろ?」
ねずみ男は腹を抱えて笑う。鬼太郎は、ネコ娘が悩んでる? と首を傾げた。ぼんやりとするネコ娘をぼんやりと見つめる鬼太郎。その隙に、ねずみ男はちゃっかり鬼太郎の芋を横取りして口に放り込んだ。芋の感覚がなくなったことに気付いた鬼太郎が、あーっ! と声を上げる。ねずみ男は芋を頬張ったままニッと笑った。
「へへっ、ざんねーんっした! もう、俺さまが食っちまったもんねーだ!」
ごくんと呑み込んで、ベーっと舌を出して笑う。砂かけが火掻き棒を振り上げて怒った。
「こりゃ、ねずみ男! お主はもう二つも食ったじゃろ。鬼太郎の分も取るんじゃなーい!」
「ケッ、うるせぇやい! どうせねだってももうくれねぇんだろ」
「当たり前じゃ! 誰が底なしに食うお前なんぞに、そう何度も芋をやるもんか!」
「言うと思ったぜ、このばばあ! だーれがそんな芋欲しがるかよ」
ねずみ男はまた、ベーっと舌を出した。そんなねずみ男の態度に、砂かけの怒りはヒートアップする。ねずみ男は不意に鬼太郎に耳打ちをした。
「……この間のことだよ、おバカ鬼太ちゃん」
意味が分からず呆けたように見上げる鬼太郎を見て、ねずみ男はケケケッと笑った。プンプンに怒った砂かけが、目の端を釣り上げてねずみ男に近付いていく。ねずみ男は、あばよ! と手を振って、脱兎のごとく立ち去った。鬼太郎は、そんな騒ぎにも気付かず未だにボーっとしているネコ娘を見て、この間のこと……かぁ、と呟いた。
思い当たるのは一つしかなかった。
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