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鬼ごっ子

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夢現

初めて書いた鬼太郎の小説


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それは、なんでもない日だった
本当になんでもなかったんだ
いつもの毎日が繰り返されるはずだったんだ

 

夢現
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窓から差し込む朝日がまぶしくて、僕は目が覚めた。時計だなんてハイテクなものは持っていないし、バケローはたしかアマビエが持って行った。よって、今が何時か正確な時間はわからないが、おそらく八時くらいだと思う。父さんはまだ朝のジョギングから帰ってきてはいなかった。
「お湯を沸かしておこう」
しておくことを言葉にして言う。そうしないと、何もする気が起きなくてまた寝てしまう。ネコ娘が起こしに来てくれるのが嫌いなわけじゃないが、それまで父さんが大好きな茶碗風呂に入れない。
甕(かめ)に入れていた水をやかんに注ぎ、つるべ火に温めてもらう。数十秒待ったくらいで、ふと思い出した。
「そうだ。父さんはおじじのところに行っているんだった」
やかんを戻して外に出る。雀の鳴き声が聞こえる森を抜け、横町のおばばのアパートへ向かう。道に面したところにある椅子に、将棋板をにらむおじじと父さんがいた。僕が声をかけるより早く、走り寄ってきたネコ娘が言った。
「おやじさん、おはよう。今日はおじじと将棋?」
「そうなんじゃよ。昨日も付き合わされてのう。わしに勝つまでやめんと言って聞かんのじゃ」
その言葉におじじが泣きながら首を振った。
「いやじゃいやじゃ!わしは一度でいいから勝ちたいんじゃ~!」
「おじじ、落ち着いて」
僕は傍に寄って落ち着かせようとしたけれど、おじじの声にかき消される。
「ええい! 朝からわめくな!」
そんなおじじを止めたのはおばばだった。ものすごい形相で家賃の台帳を突きつける。
「遊んだり泣きわめいたりする暇があるなら、家賃を払わんか~!」
「いやじゃいやじゃ!おばばも家賃もいやじゃ~!」
そう言いながらおじじは逃げた。フンッ、とおばばが鼻を鳴らす。僕はいつも通りの光景に苦笑いを浮かべた。
「ねえ、おやじさん。これから私とどっか行かない?どうせおじじとの将棋にも飽きてたんでしょ?」
「そうじゃのう。児泣きもどこかへ行ってしもうたしのう」
父さんは身軽にネコ娘の手に飛び乗った。ネコ娘は父さんを頭の上に乗せる。そのまま去っていく父さんに驚いて、声をかけた。
「父さん?お風呂に入らなくていいんですか?」
すっかり毎朝の日課になっている朝風呂は、今日はしなくてもいいんだろうか?
「お、そうじゃ。すっかり忘れておった」
「どうしたの?おやじさん」
ネコ娘は振り返らずにどんどん進んで行く。それを止めようともしない父さんを不審に思って、僕は後をつけた。父さんは平然と言う。
「ネコ娘や。遊びに行く前に、どこかで朝風呂に浸かりたいんじゃが」
「すぐに湯を沸かしますよ父さん。お風呂なら家で…」
「わかったわ、おやじさん。行きながら、どこか丁度いいところを探しましょ」
ネコ娘は僕の言葉を無視した。父さんもまるで聞こえていないかのような素振りで、ネコ娘の頭の上に大人しく乗っている。
「ちょっと待ってよ、ネコ娘」
僕はネコ娘の手を握って引き留めた。途端にネコ娘の体が強張る。いつもと違う様子に、僕は思わず手を引っ込めた。
「どうしたんじゃ?」
「今……なんか、手を握られたような……」
ネコ娘が振り返る。目の前に僕がいるのに、焦点は僕に合っていない。僕の体が透けているかのように無視して、僕の後ろを見ていた。振り返ってみても誰もいない。ネコ娘は誰を見ているのか。
「気のせいじゃろうて。ここにはいろんな妖怪がおるからのう。もしかしたら、姿の見えんやつでもおるのかもしれんぞ」
「やだ。やめてよおやじさん。そんな変態野郎がいたら、すぐにでも引っ掻いてやるわ」
ネコ娘が爪を伸ばして笑う。それに釣られて父さんも笑う。
僕は・・・ちっとも笑えなかった。
薄々気づいていた事実が、認めたくない事実が突きつけられる。

――僕が……消えてしまった…………

 

 

僕が消えてから、もう何日も経った。何度も日が昇り、沈み、また昇る。日付を数えるのはずっと前にやめた。

――いっそのこと、本当に消えてしまえばいいのに――

数日前、ネコ娘について街に行った。変わらず、あのシュークリームを買いに来たらしい。僕はなんとなく窓から店の外を眺めていた。その前を、ぬらりひょんが何食わぬ顔で通ったのだ。ぼくは驚いて後をつけた。あいつにも僕は見えないらしい。街をぶらつき、夜になるとどこからともなく朱の盆がやってきて、二人で店に入った。僕は回り道して中庭から入る。いくら見えなくても気は引けるから。中庭に面した座敷でぬらりひょんは酒を飲んでいた。一言「不味い」と言う。普段ならたったそれだけで店を爆発させてしまうのだが、今日はそれ以降ちっともしゃべらず、チビチビと酒を飲んで大人しく帰った。僕はぬらりひょんの消えた路地をいつまでも眺めていた。

――僕がいなければ、この世界は平和なのかもしれない――

窓も開けず、簾(すだれ)を垂らしたままの真っ暗な家の中で、そんな考えばかりが頭をめぐる。僕は大きくため息をついた。

「本当に、消えてしまえばいいのに……」

口に出して言ったとき、眩(まばゆ)い光が家を包んだ。その光の元は僕の足だった。つま先から光っては光の粒となって消えていく。僕が消えていく。もうどうでもよかった。僕は目を閉じて、深く深呼吸をした。

「鬼太郎!」

走馬灯のようにネコ娘の声が聞こえる。何日も聞いてなかった、僕に向けられた、僕宛の声。幻聴でもいいから最後に聞けてよかった。

「鬼太郎!!」

今度はねずみ男の声が聞こえた。僕がいなくなったら、みんなはねずみ男を見捨てるだろうか。そしたら、今度こそ本当に地獄に堕ちてしまうのではないか。

不意に不安になって目を開けた。目の前にネコ娘とねずみ男の顔がある。二人ともちゃんと僕を見ていた。消えかけていたはずの体は消えずにそこにあった。

「鬼太郎、帰ろう」

ネコ娘が僕の腕を掴んで立たせた。僕はキョトンとした顔で首を傾げる。

「帰るってどこにさ」

「どこかなんて決まってんだろ。お前がいるべきところが帰るところさ」

ねずみ男はカッコいいことを言ったと悦に浸っていたが、ネコ娘にバッカみたいと笑われてそっぽを向いた。僕は、久しぶりに見る日常に、懐かしさが込み上げてきて小さく微笑んだ。それを合図かのようにして、ネコ娘が僕の腕を引っ張った。よろつきながらも簾をくぐる。外の光が眩しすぎて目を閉じた。

 

 

次に目を開けたときには、家の天井が映っていた。僕は今、布団の中で仰向けになり、天井を見つめている。

「……今のは、夢?…」

僕が呟いたとき、簾を上げてネコ娘が入ってきた。

「きたろー! まさか今までずっと寝てたの? もう昼よ。ぐうたらしないの」

そこには在来(ありきたり)で平凡な日常があった。

 

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読書 妄想
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ここは、鬼太郎至上主義者である私―傘屋が管理する二次創作ブログです。
小説を不定期であげています。
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